AIが拡げるフィードバック体験〜MCPで人事評価データを安全に活用する〜

はじめに

こんにちは。ユーザベースのCorporate Engineering組織でソフトウェアエンジニアをしている岩本です。

前回の記事では、社内人事評価システム「winwin」の開発の裏側についてお伝えしましたが、今回の記事ではAIを使った評価フローについてお伝えできればと思います。(前回の記事をまだ読まれてない方は、ぜひこの機会に読んでみてください!)

winwinのリリース後、使いやすいシステムができたことで多くの社員から好評をいただきました。しかし、「使いやすい」だけで終わらせるのはもったいない。そもそも評価システムを内製開発したことで、人事評価データを自社で確実に管理できるという前提があり、今だからこそ、もっと活かせる形にしたいと考えました。これは外部サービスでは実現しづらい強みであり、データを安全に扱いつつ社内でAI活用に取り組むための大きな土台となっています。

このような背景のもと、評価データを活かして社員の成長支援や評価プロセスの効率化につなげたいという組織内のコンセンサスも得られていました。 そしてちょうどその頃、別のプロジェクトとしてSlack AIエージェントアプリの開発も進んでいました。このAIエージェントから評価データにアクセスできれば、Slackという使い慣れた場所で、いつでも気軽にフィードバックの下書きを作成したり、過去の目標を振り返ったりできるようになります。

そこで導入したのが Model Context Protocol(MCP) です。

なぜMCPを選んだのか

MCPを選んだ理由として、特に以下の点が魅力的でした。

  1. 標準化されたプロトコル

    MCPはAnthropicが提唱するオープンな標準プロトコルです。 独自のAPIを設計してAIと連携することも選択肢としては考えられましたが、その場合、AIツールごとに個別の実装や運用が必要になります。 REST APIは人やアプリケーションが使う前提で設計されているため、AIエージェントから利用するには追加の調整が必要です。

    私たち自身がAIエージェントを開発する立場であることを考えると、AI向けに標準化されたMCPを採用することで、 開発コストを抑えつつ、将来的な他AIツールとの連携にも対応しやすくなると判断しました。

  2. セキュリティの強化

    評価データは非常にセンシティブな情報であるため、アクセス制御を重視しました。 既存のOktaなどの認証基盤によってユーザーが識別されている前提のもと、 各ユーザーが自分に関係する評価データのみにアクセスできる設計としています。

    MCPには、データアクセスに関する標準化されたベストプラクティスが定義されており、 認証・認可の仕組みもプロトコルレベルでサポートされています。 独自実装でセキュリティを一から設計するよりも、 こうした前提を取り入れやすく、センシティブなデータの取り扱いと利便性を両立できる点が魅力でした。

MCP Server の実装概要

MCPサーバーの実装には、AWS Lambda + Lambda Web Adapter + Hono の構成を採用しました。MCPでは Streamable HTTP を用いた通信が前提となるため、 ストリーミング対応と運用コストのバランスを考慮した構成を選択しています。

  • Lambda Web Adapter

    通常のWebアプリケーションをLambda上で動かせるツールです。MCP の Streamable HTTP 通信に必要なストリーミング機能をサポートしており、サーバーレス環境でもMCPサーバーを実装しやすい点が特徴です。

  • AWS Lambda

    サーバーレス構成のため、インフラ管理が不要で自動スケーリングにも対応しています。利用量に応じた従量課金となるため、社内向けツールとしてもコストを抑えやすい点がメリットでした。

  • Hono

    軽量で高速なWebフレームワークで、TypeScriptとの相性が良く、Lambda環境でのパフォーマンスに優れる。MCP向けのミドルウェアも用意されており、開発体験が良い点も採用理由の一つです。

この構成により、評価システムとAIエージェントをシンプルかつ安定して接続できる MCPサーバーを構築することができました。

AIエージェントの導入効果

時間の短縮

Before

評価にあたっては、過去の目標やフィードバックを都度探し直し、 それらを踏まえて次の目標や自己評価をゼロから考える必要がありました。 情報を集めるだけでも時間がかかり、文章を書くこと自体が負担になっていました。

After

MCP導入により、AIエージェントが評価データを参照できるようになりました。 AIエージェントが参照した過去の目標やフィードバックをもとに次の目標案を提案したり、「この半年で成長した点」を要約したりすることで、目標設定やフィードバックにかかる時間を大きく短縮できています。

「文章を書く時間」から「内容を考える時間」へと、時間の使い方がシフトしています。

負担の軽減

Before

フィードバック作成では、「何を書こうかな」と考えるところから書き始めることが多く、 情報を整理するだけでも心理的な負担がありました。 UZABASEでは360度フィードバックも取り入れており、複数のフィードバックを作成するため、その負担はさらに大きくなります。

After

フィードバック作成においても、AIは有効なサポート役となっています。 メンバー本人のフィードバックや360度フィードバックを参照しながら、AIが下書きのたたき台を提示します。 上司はそれをベースに加筆・修正することで、情報収集や構成を考える手間が減り、伝えたいメッセージの本質に集中しやすくなりました。

必要な情報を集めて整理する負担が軽減されたことで、フィードバックそのものの質に向き合いやすくなっています。

これからの展望

MCPの導入により、実際に活用いただいたユーザーからは評価にかかる時間と負担がかなり削減されたとの言葉をいただいています。

次のステップとしては、評価の質を高めることです。

UZABASEには、評価軸となるコンピテンシーがあります。今後はこのコンピテンシー情報も何かしらの形でAIエージェントが参照できるようにすることで、単なる効率化を超えて、目標設定やフィードバックの内容そのものを深化させることが可能になります。

おわりに

自社開発した評価システムにMCPを導入したことで、AIエージェントと社内データを安全につなぎ、人の成長を支援する基盤が整いました。

これらの活用により、評価業務の効率化だけでなく、評価そのものの質を高める可能性も見えてきました。

今後、Corporate Engineering組織では、さらに深く評価プロセスを支援できる仕組みを目指すとともに、人事評価システムだけでなく、さまざまな社内データをAIが活用し、社員一人ひとりがより本質的な業務に集中できる仕組みづくりに取り組んでいきます。(Slack AIエージェントアプリについても、また別の機会に話せたらと思います)

読んでいただき、ありがとうございました。

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