こちらの記事は以前にNewsPicks Tech Guideに投稿された記事をインポートしたものです。元の記事はid:yossiyossi923によって書かれました。
こんにちは!
NewsPicksのデザイナーの吉川です。
9/26・27の2日間、ニューヨークで行われたAWWWARDSカンファレンスに参加しました。
最前線で活躍するクリエイターたち合計24社のキーノートは大変刺激的でした。2020年1月に開催予定の東京で参加される方はもちろん、海外のクリエイターたちがどんなことを語るのか気になるというみなさまにも、その一部をお届けできればと思います。
カンファレンス1日目のスピーカーとトークの内容はこのように、デザインに関わる各企業の専門領域について深く、そして様々な視点で伺うことができました。
- Airbnb(デザインジェネラリストに必要なスキル)
- Goldman Sachs(UXで扱うデータ分析)
- Conde Nast(ネーミングにおけるUXライティング)
- InVisionApp(経済行動学)
- Squarespace(自社で行うブランディングとしてプロダクト)
- Build in Amsterdam(EC同質化に対するブランディングの取り組み)
- Fjord, part of Accenture Interactive(クリエイティブのための働き方)
- The Mill(AIにより実現する拡張的アーティストとしての活動)
- B-reel(実例と共にファッションサイトのブランディング)
- Etsy(Estyの環境から考えるUX)
- Mailchimp(UIにおける言葉選びの原則)
- Adobe(AIの登場による創造性から生産性への転換)
その中でも特に紹介したい「Airbnb」「Goldman Sachs」「Conde Nast」「InVisionApp」「Build in Amsterdam」、この5つのトークについてまとめました。
- Airbnb - Molly Ni「デザインジェネラリストに必要なスキル」
- Goldman Sachs - Tomer Sharon「UXで扱うデータ分析」
- Conde Nast - Sophie Tahran「ネーミングにおけるUXライティング」
- InVisionApp - Pablo Stanley「経済行動学」
- Build in Amsterdam - Daan Klaver
- まとめ
Airbnb - Molly Ni「デザインジェネラリストに必要なスキル」
Design Generalistというテーマでジェネラリストに必要な6つのスキルと彼らの実践について語りました。ジェネラリストといえば「スペシャリストの対義で使われ、多方面の知識を持っている人」を指すことが多いと思います。Airbnbでの事例を用いて紹介してくれました。
彼女はスライドの表紙に「We're not special, and that's okay.」と書いていましたが、私の想像していたイメージとは少し違いました。Airbnbにおいて、ジェネラリストは戦略的側面、UXで深い知識や成果へのコミット力を持ち合わせることが必要です。同じように、ジェネレーターやスペシャリストにおいても全体を理解した上でそれぞれに特化している分野があります。ジェネラリスト・ジェネレーター・スペシャリストは得意領域をどこに持つかだけの違いのようです。
【デザインジェネラリストに必要なスキル】
Deeply Strategic
北極星を目指すために緻密に計算するような深い戦略性Evidence Driven
情報に基づいた意思決定を行うための定性的および定量的バランスを持つStrong Storytelling
ユーザーの視点からビジョンと戦略を伝える強力な語り手であるSystem Thinker
稼働中のシステムのダイナミクスを展開するシステム思考を持つHighly Collaborative
強固なプロダクトを開発するための学問的なマインドを持ち合わせ連携に長けているExtremely Adaptive
変化に対していつでもすぐに対応できる準備ができている高度な適応力
Airbnbの場合、User Experienceはプロダクトの中だけではありません。
ゲストは、プロダクトを使い予約を行なった後にホストが提供する宿に宿泊し、ホストは、またその宿を管理し次のゲストの宿泊に備えます。実際にはそこで生まれる体験にこそあります。リアルなユーザーストーリーを知ることにつとめ、想像し、いつでもそのイメージを引き出せることが必要になります(例えば国によって運転できる状況も違います)。
またその戦略性で各職種とのコミュニケーション力を発揮しプロダクトを成長させていきます。エンジニア・デザイナー・ビジネスの関係性をベン図ではなく、3つ脚の椅子と例えました。各職種に必要な情報を届け、必要に動き、同じ方向へ向かわせるのがジェネラリストだといいます。
戦略を立てプロダクトの進行を担っていく点において日本ではしばしばプロダクトマネージャーという役割が存在しています。Airbnb社長ブライアン・チェスキーがデザイナーでもあり、デザイン組織としてその役割の違いに参考になりました。
Goldman Sachs - Tomer Sharon「UXで扱うデータ分析」
Goldman Sachsは、ニューヨークに本社を置く超大手グローバル金融グループです。まず、金融の超大手150年企業がAWWWARDSカンファレンスに登場していることに驚きました。彼は元々、We WorkのUXリーダー、Google SearchのUXリサーチャーであり、また13ヶ国でユーザー調査に関するコンサルティングを行なった実績があり、関連して2つ本を執筆しています。ユーザーリサーチのプロフェッショナルであるTomerの話は私たちが見落としがちなデータ活用において金言を残してくれました。
KEIs(Key Experience Indicators)は、製品またはサービスの使用に関連する特定の重要な実用的な現象の定量的なスコアです。(補足:KEIsの一つとして例えば、デザインのABテストの結果、目的の行動にたどり着くまでの時間をデザインの判断に利用するなど)
NPS(Net Promoter Score)というユーザー満足度指標の調査では、10段階にプロダクトの推奨度をポップアップなどで表示しユーザーに評価を求めます。1〜6(批判者)、7〜8(中立者)、9〜10(推奨者)として、推奨者の割合から批判者の割合を引いた数が指標になります。ローンチ後の分析〜開発の繰り返しのプロセスが弱いという一方で、"私たちがデータを信用する限り、全てにデータを持ち込む必要がある" といいます。
"Data is like garbage, you'd better know what you are going to do with it before you collect it. " - Mark Twain" (データはゴミのようなものなので、データを収集する前にデータを使って何をしたいのか知っておくとよいでしょう。)
このグラフデータだけを見ると最初と最後ここでは何も変わらないように見えます。しかし、実際には問題が改善されている。変更があったタイミングで改善プロセスが加わっているからです。直後は数字に影響が出ているが、結果的に同じ数字にまで戻る。これは同じと言えるか? このように、目的を持ってデータを集めなければ結果を見失ってしまいます。
Conde Nast - Sophie Tahran「ネーミングにおけるUXライティング」
Conde Nastは、VOGUEやGQなどを出版する多国籍雑誌出版企業として、文字を扱うプロフェッショナル集団です。登壇したTahranはUXライターとして言葉、文法、タイプを重視するデザイナーです。今回、カンファレンスではアートとサイエンスの視点でネーミングについて語りました。
専有名(Proprietary)と共通名(Common)についてネーミングの原則として意識しているポイントです。専有名の場合は「独自のプロダクト」「資本化およびブランド化」「マーケティングチームと作っていく」(独自性が必要で、かつその名前である理由を説明できなければならない)、一方共通名の場合は「標準の概念」「ブランディングではない記述」「サポートチームと作っていく」(例えば、サポートのメール文面で共通言語がバラバラではいけない)
DisneyやBUEBERYはEponymous(人名の)、SlackやFacebookはSuggestive(挑戦的)、AmazonはAssociative(連想の)といったように専有名の種類別に一覧化したものです。
【Conde Nastが行うネーミングプロセス】
- Lay the Foundation:基礎固め
- Brainstorm:ブレスト
- Refine, refine, refine:ブラッシュアップ
- Get approval:承認を得る
- Drive adoption:採用を促す
ブレストでは、一つのアイデアにつき2分でポストイットに書き出します。たくさん書き出した中から投票し、エントリーポイントごとにグループ化する。ブラッシュアップのタイミングで、もう一度新鮮な視点を得てから、再ブレインストーム、調査を実施し、よりよいネーミングを見出しきます。いくつもの原則のもと、人々をハッとさせる言葉をつくり、そして巧みに扱うのは知識と経験があればこそ。貴重な内容を聞くことができました。
InVisionApp - Pablo Stanley「経済行動学」
Pabloは、自ら書いたイラストを使ったGIFプレゼンテーションが得意技。過去2回のカンファレンス出場時や、彼がYouTubeで配信しているSketch Togetherでもイラストを動かしながら、ユニークで非常にわかりやすい説明をしてくれています。
Behavioral Economics(行動経済学)について話してくれました。人は感情や偏見それ以外の無関係な事象のような、時に不合理な情報によって判断する。しかし、これまでの伝統的な経済学では、私たちが行うすべての選択が合理的であると想定し、私たち全員が情報に基づいた決定を下していました。
1992年にDaniel Kahneman, Knetsch & Thalerが行なった実験では、チョコとマグカップを渡してから逆のものに交換してもらうことを要求し承諾されるかどうかをみるものだ。それらはSimilerな価値(価格)のものを用意したはずが、結果は50%ではなく11%と89%となった。その実験の結果から、人は初めから手に入れなかったことよりも、一度手に入れたものを失うことの方が損失が大きいと考え行動するということがわかった。これは損失回避行動といわれる。
経済学という点では、少し小難しい内容にも関わらずイラストで楽しく見せるのが本当にうまい! ユーザー行動を考える上では行動学も必要な知識ですが、導入としていい題材になっているので、実験の参考情報などhttps://humanhow.com/en/endowment-effect/ みてもいいかもしれません。
また、去年もコミカルな登壇で面白いのでぜひ見て欲しいです。
Build in Amsterdam - Daan Klaver
Build in Amsterdumは、adidasやNikeといった大手スポーツメーカーや、香水「Avel」やスノーボードブランド「Open Wear」などEC系ブランディングエージェンシーです。2016年から3年連続でAWWWARDSの「Site of the Year賞」を受賞する実力・実績のあるチームです。今回登壇したのは創業者Klaver、ブランディングに対する思いを語りました。
「これから数年後、多くのファッションブランドは同じように、サンセリフのゴシックにロゴが変わってしまうだろう」と皮肉っぽく言いました。ファッションに限らずGoogleとAppleのプロダクトが均衡に向かい、ファッションECサイトは白地にシンプルなものになり、まるで違いがわからなくなっている。
イノベーションやクリエイティブよりも、収益性の高いことやカスタマーサポートや改善の優先度が高まり、そこそこにいいものだけが圧倒的に多くある。しかし、現実には購買理由の80%が感情によるもの、論理は20%でしかない。ブランディングが作っているのは、ブランドと人との感情的な接点。他社との違いを見せることでブランド価値が高まり、人はブランドに違いやその意味を感じると22%も多く支払う。
"Creativity driven not financially, not the biggest but the best. think brand not website" (創造性はお金で突き動かされるものではないし、大きくあることが最高だとは限らない。ウェブサイトではなくブランドを考えよう。)
「fighting e-commerce sameness」 これは彼が発していて特に印象に残っているものです。
彼がカンファレンスで紹介したサイトはこちら店舗デザインにもブランディングの一環として関わっている。サイトを見ると、細かいところまで仕掛けが散りばめられているので絶対見て欲しいと思います。
まとめ
会場が違えば登壇者もガラリと変わり、楽しみも異なります。ニューヨークではスタートアップが比較的に多く、サンフランシスコ会場ではGoogleやDropbox、Facebook、Linkedin、Uberといったグローバル企業が登壇しています。
彼らがなんども発していたのは "We(Designers)" "Creative" "Believe" "Brand" という言葉でした。彼らはデザインを信じて、彼らが最高だと思うものに挑戦していました。日本では持ち帰ってすぐに使えるアイデアはありますが、デザイナーが信念で語ることはあまりないように思います。今回、現場で実践しているデザイナーたちがつくるものやその信念に心が動かされ「彼らのように作りたい!」と創作意欲が湧くような機会に出会えました。
webデザインにおいては、テンプレートを活用すればデザイナーやエンジニアがいなくても綺麗なものがつくれます。そうなれば、サイトだけでは他社と差別化することは難しく、ブランディングのために必要な手段の一つとして、徹底して独自の表現手法、体験を追求し続けるその覚悟が必要なことを感じます。
以上1日目でした。
それでは2日目もお楽しみに!
AWWWARDSカンファレンスの概要を知りたいという方はこちらもご覧ください。 tech.newspicks.com