1年で内定承諾率が8倍に。エンジニア採用は「開発者体験」と「候補者体験」を良くすれば上手くいく!

こんにちは。NewsPicks CPO/CTO の 文字 です。NewsPicks Advent Calendar 2022 の 4 日目を担当します。昨日は 池川さん による Kotlin 知見共有会 ー 社内勉強会を継続させるための工夫 でした。

qiita.com

ちょっとキャッチーなタイトルを付けてしまいましたが、今日は NewsPicks のエンジニア採用に関する取り組みと、そこから得た学びについて共有できればと思います。

はじめに

おかげさまで NewsPicks は、このご時世には珍しいほど エンジニア採用が絶好調 です。毎月のように素晴らしい仲間たちが、次々と入社してくれています。数値で見ると 2021 年 → 2022 年にかけて、我々のエンジニア採用状況は次のように好転しました(もちろん、採用基準は落としていません。むしろ選考通過率は下がっています)。

しかし昨年までは、とても今の状態はイメージできていませんでした。エンジニア採用はさっぱり上手くいかず、面接しても面接しても成果が出ない・・・当時の内定承諾率はわずか 10%台 でした。そんな状況に陥っていた我々に、一体なにが起きたのか —— この記事では、これまでの我々の取り組みについて、ご紹介させてもらえればと思います。

当時の状況

年始、私が CTO に就任したのと合わせて、前任者から採用活動を引き継ぐことになりました。感覚として、前年の採用活動はあまり上手くいっていなかったため、まずは現状把握から始めることにしました。当時は KPI の管理もされていなかったため、まずは採用ファネルの状況を可視化したところ、大きく 3 つの課題がありました。

  • カジュアル面談からのエントリー率が低い
  • 面接途中での離脱が多い
  • 内定承諾率が非常に低い

なかなか候補者を獲得できず、頑張って面接しても、ほぼ受諾してくれない・・・採用活動の指針もなく現場の疲弊感も出ていたため、まずは目標(OKR)を定めた上で、「全員で採用にコミットする」ことを打ち出しました。また採用活動のスローガンとして「候補者をファンにする 💘」を掲げることにしました。社内には「仮にご縁がなかったとしても、『良い会社』だなと思ってもらえるようにしましょう」と呼びかけました。

候補者体験の改善

採用を引き継いだのは年始でしたが、1~2 週間ほど現状分析をした上で、すぐに選考プロセスを大きく変えて候補者体験の改善に動き出しました。結果として、これらの打ち手は全て正解だったと思います。

転職ドラフトの強化

前年の採用活動では転職ドラフトにあまり力を入れておらず、エージェントや自己応募が中心になっていました。一方で私の感覚として、転職ドラフトは「頑張れば頑張るほど成果が出る」感覚を持っていたため、「全員採用」の一環として全リーダー陣で転職ドラフトに本気でコミットすることにしました。具体的には、転職ドラフト開催初日に全員が集まり、熱のこもったメッセージを送るプロセスの徹底です。

当たり前ですが面談の獲得数は「指名数 x 承諾率」で決まります。数にもコミットしつつ、しっかりとレジュメを読み込んだ上で候補者の方に少しでも興味を持ってもらえるようなメッセージを送るように心がけました(ここでも「候補者をファンにする 💘」が大事ですね)。結果として、承諾率も常に上位をキープしていたと思います。

エンジニアの給与アップ(+50 万)

前年の内定辞退理由を振り返っていたところ、年収面がネックになっていることがありました。弊社は事業会社としてはかなり高い水準の報酬を提示できていると考えていましたが、どうも採用活動で特にターゲットとなりやすい「ミドル層」の給与が、競合と比較してやや低いことが分かりました。私たちは、ご本人がお持ちの能力に対してタイトルが決まり、タイトルに対して自動的に年俸が決まる透明性の高い評価制度を運用しています。したがって採用時に年収を相対交渉することはありません。タイトルに対して厳密に年俸が決まっています。ただ、この形だと相対での給与交渉/調整が可能な他社に対して、特にミドル層で給与水準が見劣りしてしまうことがあるようでした。

そこで、給与改定を行うことにしました。この際さまざまなエビデンスを集めた上で経営陣に提案しましたが、特に参考になったのは、やはり転職ドラフトです。同じ候補者に対して競合他社がどの程度の金額を出しているのか平均値を算出し、市場平均以上の金額になるように給与改定を行いました。今回の場合、エンジニアの給与を全体的に 50 万円引き上げることにしました。

なお余談ですが、経営陣としても個人としても「エンジニアだけの給与をアップする」ことには強い抵抗感がありました。エンジニアの採用競争が激化していることは認識しつつも、このようなやり方は私たちのカルチャーには合わないのではないか —— 何度も議論を重ね、最終的に生まれたアイディアが、エンジニアという「職種」の給与をアップするのではなく、エンジニアリングスキルに対して手当てを出す 「プラスエンジニアリング手当て」 です。この制度によって、エンジニア以外の方でもスキルを身につければどんどん給与を上げられるようになりました。いま社内では SQL やちょっとしたスクリプトを書ける人が続々と増えており、少しずつテクノロジーカンパニーとしての地力が上がっていると感じています。

※ 制度の詳細はこちら

カジュアル面談の見直し

カジュアル面談は会社の「顔」です。ここで良い印象を持ってもらえるかで、その後の志望度が大きく変わってきます。そのため、カジュアル面談を大幅に強化することにしました。具体的には、最初のカジュアル面談から役員が担当したり、カジュアル面談が得意な(エントリー率が高い)メンバーを中心に担当するように変えました。

また、面談で会社の魅力をしっかり伝えられるように、カルチャーデッキ採用サイト も作ることにしました。これらの作成にあたっては、社内の「チームアップ委員会」のメンバーや、広報チームが積極的に協力してくれました(いつも本当にありがとうございます!)。

tech.newspicks.com

これらの資料をつくることで、カジュアル面談のクオリティが一定担保しやすくなりました。またそれだけでなく、事前に資料を読んで会社に共感してくれた方が面談に来てくれるようになるので、カジュアル面談からのエントリー率が大幅に上がりました。

技術課題の撤廃とワークショップ面接の導入

実は前年までは、二次面接の前に技術課題を出すようになっていました。しかし改めて前年の採用状況をふりかえると、どうやら技術課題の手間が理由で選考を途中離脱している人が多いことが分かりました。また面接を重ねても候補者の意欲が高まっておらず、それが結果として途中離脱の多さや内定承諾率の低さに繋がっているようでした。

そこで、もっと選考過程の中で「お互いを知る」プロセスを作るべきだと考え、技術課題を撤廃し、二次面接をワークショップ型の面接に置き換えることにしました。このワークショップ面接は、実際のコーディング作業を通じて「お互いが」一緒に働きたいと思えるか、を重視して設計しています。

結果、ワークショップ面接は候補者の方からも非常に評判が良く、「面接が楽しかった」「一緒に働くイメージがついた」「会社やチームの雰囲気に魅力を感じた」などのコメントをいただいています。我々としても候補者の方との人となりが良く分かり、お互いを知るプロセスとして非常に有効に機能していると感じています。

※ 実はこのワークショップ面接は、グループ会社であるアルファドライブで成功していたプラクティスです。今回の Advent Calendar で後日(12/23 ~ 12/24)詳細が語られるそうなので、ここでは詳細は割愛します。

面接参加者を増やす

業務負荷の問題もあり、前年までは各面接に 1 名ずつしか参加していませんでした。しかし、これではどうも「その会社にどんな人がいるのか」が伝わりづらいようでした。

そこで、各選考プロセスには必ず 2 人以上が参加する形に変えました。また副次的には、複眼で見ることで、弊社にとっても「候補者の方と一緒に働きたいと思えるか」を正確に見極めることが出来るようになりました。採用はあくまで「両者が」お互いのことを正しく知り、その上で一緒に働きたいと思えるか、が重要です。複数人と会っていただくことで、お互いの見極めがやりやすくなったと感じています。

オファー時にラブレターを渡す

ここまでの打ち手で、選考プロセスを進めるごとにお互いの理解が進むような設計に変えることが出来ました。

最後に、オファー面談の際にもしっかりとこちらの熱意を伝えるようにしました。具体的には、候補者の方ひとり一人に対して、「なぜ一緒に働きたいのか」「入社後の活躍イメージ」などを含む資料を作成し、オファー面談時にこの資料に沿って説明するように変えました。実はこのラブレター、一人あたりおよそ 1 時間以上かけてじっくり作っています。最初は「ちょっと暑苦しいかな・・・」などと思っていたのですが、結果としては候補者の方からの評判が非常に良く、内定承諾率アップに繋がっているように感じているので今も続けています。

候補者体験を良くするだけでは、採用はうまくいかない

ここまで読んだ皆さんは、「あれ、選考プロセスを見直したら上手くいったの?」と思うかもしれません。

残念ながら、ここまで書いたことを全てやっても、エンジニア採用はうまくいきません!大事なことなのでもう一度言いますが、プロセスだけを工夫しても上手くいかないのです。何故ならば、候補者体験の改善によって「お互いを正しく知る」ことが出来たとしても、その会社を魅力的に感じられなければ、どのみち候補者はその会社を選んでくれない からです。「お互いを正しく知る」のは、最低条件なんですね。

では、何が伝われば良いのでしょうか?

事業の魅力・ヒトの魅力・技術の魅力・・・いろいろな観点がありますが、事業や会社風土は(ある程度は)所与の条件です。これらを正しく伝えることは重要ですが、中身を大きく変えるには長い時間がかかるでしょう。その点、我々エンジニアが手っ取り早く変えられるのが「開発組織の魅力」です。そしてこの魅力は、開発者体験の改善によって大きく引き上げることができます。

開発者体験の改善

本当に開発者体験を良くするとエンジニア採用はうまくいくのでしょうか? その間には、一体何があるのでしょう?

簡単に結論から言うと、弊社の場合は次の 2 つのサイクルが回り出しました。

ひとつは「開発者体験がさらに良くなる」サイクルです。一度開発者体験が良くなりだすと、その実績を内外に発信できるようになります。そしてその実績に刺激を受けたメンバーが、さらに新しい挑戦をすることで、加速度的に開発者体験が良くなっていきます。

このサイクルが回りだすと、次に「さらに仲間が集まる」サイクルが動き出します。すなわち、自分たちの実績や経験談によって、エンジニアが自社の魅力を自信を持って語れる・発信できるようになっていきます。そして、それが「正しく」候補者に伝わることで、採用がうまくいくのです。

※ 詳細は 弊社メンバーの 登壇動画 でも触れられていますので、是非こちらもご覧ください。

開発者体験の改善は一夜にしてならず

しかし私たちの組織がこの状態になるまで、実に 2 年以上がかかっています。これまでの歩みをまとめると、年ごとに大きく次の変化がありました。

  • 2020 年:「最高の開発者体験」を掲げ、SRE チームを立ち上げ。デプロイ回数を KPI に、インフラを中心とした改善を推進。
  • 2021 年:「チームビジョン」をつくり、メンバーの挑戦を積極的に支援。モバイルアプリやウェブアプリのリアーキテクチャが進む。
  • 2022 年:「候補者をファンにする」を掲げ、これまでの挑戦の実績を発信。刺激を受けたメンバーが新しい挑戦に取り組んだり、社内勉強会の開催が増える。

正直言って、3 年前の開発組織と今の開発組織は全くの別物です。今では多くのメンバーがリファラルで知人を紹介してくれたり、弊社の発信内容を見た候補者の方が自己応募してくれるようになりました。

それでは、もう少し詳しく、年ごとの大きな出来事をふりかえってみます。

2020 年 - 開発者体験への投資を開始

NewsPicks はまもなくサービス開始から 10 年になる、それなりの歴史をもったプロダクトです。特に 2017 年頃からは様々な新規事業も立ち上げており、プロダクトも複雑化していました。一方、開発組織は比較的少数で、エンジニア同士が「阿吽の呼吸」で開発する時代が長く続きました。

しかしこの頃、徐々にエンジニアの数が増え始めるにつれ、開発効率の悪さが目立ち始めていました。このままでは上手くいかない —— そんな危機感を抱きながら当時発表されたばかりの DX クライテリアを診断すると、案の定ひどいスコアでした。

同時にこの頃、初代 CTO が退任することになり、後任としてピクシブの CTO を務めていた高山さんが入社してくれました。上述の課題感もあったため、これ幸いと開発基盤への投資に大きくリソースを張ることを決め、高山さんのミッションとして「開発者体験の改善」を担っていただくことにしました。

高山さんは「デプロイ回数」を KPI として、爆速で成果を出していってくれました。この頃の取り組みは、以下の発表資料にもまとまっています。

speakerdeck.com

2021 年 - 開発者体験の改善が加速

少しずつ開発基盤の改善が進み始め、チームも大きく入れ替わりつつあるタイミングで、チームビジョンを作り直しました。

NewsPicks Tech Vision

ビジョンの策定過程はこちら

このビジョンに基づき、いくつかの大きな挑戦が動き出しました。例えば次が代表的な取り組みです。

当然、このような大きな挑戦には相応の開発コストとリスクが伴います。どちらも現在進行形のプロジェクトですが、モバイルアプリのリアーキテクチャにあたっては、このプロジェクトを立ち上げるにあたって機能開発を約 2 ヶ月ほど止める判断をしました。ウェブアプリについても、チームの立ち上げにあたっては既存プロジェクトの開発を止めるなどの意思決定をしています。

しかし改めてふりかえってみると、この判断が NewsPicks の開発組織を大きく変えるきっかけになった と感じています。

2022 年 - 開発者体験の改善が組織文化に

前年までの挑戦による実績が積み重なり、発信数がどんどん増えていきました。また採用にあたって「組織の魅力をアピールしたい」という想いから エンジニア採用サイトカルチャーデッキ を作りましたが、本当に載せきれないほど様々な挑戦事例が積み重なるようになっています。

今では毎日ように開発者体験の改善に関する投稿が飛び交い、社内勉強会も活発に開催されるようになりました。

組織運営にあたっての私の心の KPI は「メンバーのチャレンジ数」ですが、それが確実に増えていることを実感しています。

まとめ

ずいぶん長く書いてしまいました。NewsPicks のこれまでの歩みを振り返りつつエンジニア採用について書きましたが、いかがでしたでしょうか。この記事の結論を一言でまとめると、エンジニア採用の成功パターンは、すなわち以下ではないかと思うのです。

開発者体験を良くしたら → 開発組織の魅力が高まり → それが正しく候補者に伝わると → 採用がうまくいく!

そして「候補者体験」の改善は比較的容易ですが、「開発者体験」の改善は簡単ではありません。大きな組織であればあるほど、長い時間をかけて取り組む覚悟と企業文化の構築が重要になります。

私たちが幸運だったのは、当時 CTO だった高山さんが、「小さな成功体験」を積み重ねてくれたことだと思っています。一見途方もなく見える道のりも、少しずつ確実に良くなる —— そんな体験がチームに自信をもたらし、新しい挑戦を育んでいきました。その波に乗って自ら手を挙げ、大きな挑戦に取り組んでくれたメンバーが居たことも幸いでした。彼らに比べれば私がやったことは大したことではありませんが、このような火を絶やさない組織文化を作ることが、開発者体験の改善、ひいてはエンジニア採用の成功につながるのだと確信しています。

もちろん NewsPicks は来年も「最高の開発者体験」を目指し、改善し続けていきます。しかし、それだけに留まるつもりはありません。来年の大きなテーマは「最高のプロダクトを生み出す文化づくり」です。これまで以上にメンバーのみんなが誇りを持ってプロダクト開発に取り組めるように、改めて来年も頑張っていきたいと思っています 💪

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