ソーシャル経済メディア「NewsPicks」の高山です。
この記事は NewsPicks Advent Calendar 2024 の2日目の記事です。昨日は我らがあんどぅさんによるプロジェクトマネジメントのお話でした。
はじめに
2020年頃から2024年までの4〜5年ほどかけて、社内でテックブランディングの盛り上げ担当をしてきましたので、そのまとめを書いていきます。
だいぶ長くなりましたが、備忘録も兼ねて書いていきますのでご興味のある方はお付き合いください。
僕は2020年にNewsPicksに入りまして、最初の2年ほどはCTOをしていました。その後はNewsPicksではいわゆるSREなどの基盤開発系のチームを複数持つような役割になり、今ではAI研究所をやったりグループ全体のデータ基盤の仕事もしています。最近は技術系のマネージャーと自己紹介することが多いですが、アイデンティティは今もエンジニアです。
2020年: 発端
NewsPicksでは2019年頃までは技術ブログや技術書典などでの発信が盛んでしたが、ちょうど自分が入社した2020年頃には一旦落ち着いたところでした。 自分自信も入社前はNewsPicksのアドベントカレンダーを全部読んでどんな人や技術があるのかをかなり調べましたので、発信が途絶えてしまったことは残念に思っていました。
(しかし、今になって思えば、自分がCTOとして入ったばかりで発信の文化作りを怠ったことも要因だったようにも思います)
歯がゆく思いながらも、2020年は成果を作ることに精一杯で発信にまで力を回すことはできませんでした。
2021年: 孤軍奮闘期
入社して1年が経過し、徐々に自分の成果と呼べるものも出てきて、2021年からはテックブランディングに力を入れることにしました。
当時社内で採用の全体を指揮してくれていたメンバーとの役割分担で、選考プロセスを回したりするのはそのメンバーがやって、自分はとにかくテックブランディングに徹するということにした記憶があります。
2021年にテックブランディング軸でおこなったことは主に3つです。
とにかく自分が表に出て発信した
以下は一部ですが、この倍ぐらい個人としての発信を頑張りました。
「開発者体験」を合言葉にした
開発者体験という言葉は、日本CTO協会が「2つのDX」と呼んでいたものから拾ってきたものです。
2020年から、会社でおこなっていた基盤改善を指して「開発者体験」あるいは「最高の開発者体験」という合言葉で呼んでいました。
あまりにもお経のように言い続けたために、社内のメンバーが登壇などをしてくれるときにも自然に使ってもらえるようになりました。
テックブログを整理した
NewsPicksで2019年まで使っていたテックブログは、「NewsPicksのメンバーが海外のテックカンファレンスなどの情報を紹介する」という立て付けだったので、いわゆるテックブログとは違って面倒なところがあり、解約しました。
ちょうどユーザベースでテックブログのリニューアルの話があったため(このサイトです)、そこにNewsPicksのメンバーも書いていくことにしました。
2022年: 立ち上がり期
2022年頃から社内でテックブランディング委員会という活動をはじめました。(始まった当初は「テックブログ運営」と呼んでいましたがいつしかテックブランディング委員会になりました)
以下が2022年のハイライトです。
テックブログを定期的に更新
テックブランディング委員会の活動は、テックブログを毎月1本は発信できるように社内のネタを集めたり執筆依頼することでした。
社内の取り組みを察知して「それブログにしましょう!」と言っていったり、色んなチームを回ってネタ出し大会をしていました。
他にも「テックブログの書き方」マニュアルを整備したり、記事が出たら社内に通知するような細かいところの整備をしていました。
ありがたいことに、毎月1本を目指して始めたテックブログも、2022年の後半には毎月2本がコンスタントに出るぐらいになっていました。
Server-Side Kotlin Meetup運営に参加
NewsPicksは2021年の後半頃からサーバーサイド開発言語としてKotlinを全面採用しました。
技術選択に関わった方ならわかると思いますが、自分一人でとある技術を使い始めて熟達するのと、組織内で広く使われる状態にすることの間にはとても大きなギャップがあります。皆がその技術を自分も使いたいと思うようなムーブメントを作らないと広まっていきません。
NewsPicksとしてServer-Side Kotlin Meetupの運営に参加することで、自社のメンバーにもKotlinをアピールしようと考えました。
そのようなKotlinに対する取り組みが良かったのか、社内メンバーからもKotlinに関する発信が増え、ムーブメントとして浸透していきました。
Server-Side Kotlin Meetupの運営には2年ほど参加していまして、NewsPicksでKotlinが社内で完全に浸透しきったと言えるぐらいになったので我々は運営からは外れることにしました。
ポッドキャスト番組『Meet UB Tech』
ちょうどその頃ユーザベースでポッドキャストを始めていました。僕はポッドキャストの運営には関与していませんが、このような動きが出てきたのもテックブランディングの活動が浸透してきた現れだったと思います。
ポッドキャストも盛り上げに貢献したかったので、自分はコンテンツとして何度も出演して話をしました。
採用貢献の手応え
下の記事にあるように、2022年に採用を抜本的に見直して、かなり成果を出すことができました。
テックブランディングだけが成功の理由ではありませんが、テックブランディングも目に見えて貢献できた手応えがありました。なぜなら、カジュアル面談などで多くの候補者から「テックブログ見ました!」と言ってくださるようになったからです。
事前にご自分で会社のことを調べてくださることもありますし、転職ドラフトなどでカジュアル面談にお誘いする時に過去の発信のURLをいくつかお送りしているので、それで読んでくれることもあります。
さらに、「最高の開発者体験」という合言葉を言い続けていたおかげで、発信の内容に一貫性が出せましたのも良かったですし、採用面接などに関わるメンバー達が自分の口からも開発者体験のことを語ってくれて、あらためて合言葉のパワーを実感しました。
2023年〜2024年: 発展期
テックブランディング委員会で2021年の振り返りをしていた時にメンバーから、「ブログ月を2本出すというノルマだけだとテンションが上がらないので、ワクワクする目標を掲げたい」という話がありました。そういうのにピッタリのツールがOKRだと思っていますので、OKRを決めることにしました。*1
- 2022年のObjective: カジュアル面談で自慢したくなる発信ができている!
- 2023年のObjective: 会社の技術的取り組みを発信したくなる仕組みと機会を爆増させる!
- 2024年のObjective: 「NewsPicksといえば○○」と言われる人と技術を増やし、チャレンジと発信を後押しする!
特に2023年に、メンバー達が自発的に発信したくなる環境を作ると決めたことは自分にとっても転機でした。次に書くようなイベント運営などは、面倒くさがりの自分にはなかなか気乗りしない部分もあるのですが、気持ちよく発表してもらえる場づくりに徹すると決めたからできました。
これを踏まえて2023年と2024年に取り組んだのが次のようなことです。
技術イベント運営
以下のようなイベントを企画して運営しました。
イベントで意識したことは、メンバー達が社内で取り組んでいることを発信したいと思える機会を作ってあげるということです。期日を決めてあげることでそこに向けてチャレンジを後押ししたり発信を促す効果もあると気づきました。
人によっては、ブログだといつ書いても良いので優先度を上げにくかったりしますから、発表の方が良いという人もいます。あるいは発表してそれを記事化する方がやりやすいという人もいました。
『Software Design』執筆
上記のイベントがきっかけとなり、技術雑誌のSoftware Designで「最高の開発者体験」に向けた取り組みをチームメンバーで回して発信することになりました。
この連載をやって良かったと思ったことの一つは、会社のメンバーの10人以上が「技術雑誌に執筆経験あり」という実績を解除できて自信に繋がったことです。また、執筆担当以外のメンバーにとっても、自分達が雑誌の連載を回せるぐらい誇れるチャレンジをしていると自信を持てます。
テックブランディング・オンデマンド
「ブログとか発表とか興味あるけど自分だけだとなかなか継続できない」と思う人はけっこういるかと思います。そういう人に定期的に話をしてあげて、「その取り組み、こんな風にブログ記事にしてみない?」とか、「あなただったらこんなイベントに出てみると良いと思うよ」と言ってあげると、自分でも驚くぐらいにたくさん発信できたりします。
いわばパーソナルトレーナーみたいなものです。
この取り組みを10人ぐらいの有志メンバーに対しておこない、あるSETエンジニアのメンバーは1000人以上も参加する「ソフトウェアテスト自動化カンファレンス」で発表したり、あるiOSエンジニアのメンバーはTCAというiOSフレームワークの日本初(?)の勉強会で第一人者達の一人として登壇したり、ある検索エンジニアは3年がかりの取り組みを発表してキャリアの自信を付けたり、ある新卒レコメンドエンジニアも他社のレコメンドエンジニアに交じって自社の取り組みを発表できました。
「NewsPicksといえば○○」
OKRの『「NewsPicksといえば○○」と言われる人と技術』の「人」に関してはテックブランディング・オンデマンドの取り組みを頑張りました。
「技術」軸について、「人」軸に比べて大きな成果というのは見えにくいのですが、まず先述の「TCA」などがあります。おそらくiOSの界隈では「NewsPicksといえばTCA」という認識を持ってくださっている方もいるのではないかと思います。
他には「AWSのコスト削減」ぐらいでしょうか。
振り返り
もう一度OKRの変遷を書きます。
- 2022年のObjective: カジュアル面談で自慢したくなる発信ができている!
- 2023年のObjective: 会社の技術的取り組みを発信したくなる仕組みと機会を爆増させる!
- 2024年のObjective: 「NewsPicksといえば○○」と言われる人と技術を増やし、チャレンジと発信を後押しする!
我ながら良いObjectiveの整理をしたのではないかと思っています。
テックブランディングというと採用の一貫として考える人もいるかと思いますが、自分としては、採用は決して主目的ではないというつもりでやっています。
特に、ブログを書いたり登壇してくれるメンバーに「採用のため」といっても(理屈では理解しても)発信のモチベーションとしては弱いです。少なからずプライベートの時間も使ってやることになるので、まず「自分のため」にモチベーションが上がることが重要だと思っています。
会社の名を使ってあなたのテックブランディングをしませんか?それによってあなたが新しいことに挑戦できるし、あなたの生涯年収も上がるし、あなたが将来良い仲間と働けること(=良い採用)に繋がりますよ。それがたまたま会社にとっても嬉しいことなので、後押しします。
みたいな感じです。
途中でも書いたように、採用に効いているかどうかでいえば間違い無く効いているのですが、それはあくまで効果の一つであって、他の効果もたくさんあります。
その中でも、挑戦する組織文化作りの効果について最後に書いておきます。テックブランディングに組織として取り組むと、必然的にメンバーの挑戦を後押しすることに繋がります。もちろん発信者にとっては、ブログに書くからには納得するところまで調べるとか、一段高いクオリティを目指すという力が働きます。そういったことを組織全体として期待したり褒めたりするようになるからです。
この4年ほどで本当にたくさんのメンバーにテックブランディングに協力してもらい、その過程で皆が自慢できるような挑戦をできるように会社から後押しできたこと、そういう組織文化を作れたことが自分の誇りたい最も大きな成果です。
*1:OKRとは、ワクワクするような定性的な目標であるObjectiveと、その目標を定量的に測れるKey Resultsを定める目標管理の手法